2018年8月19日
ブランド理念経営のやり方 Part1. 基本解説篇
ビジョン、ミッション、バリュー、コンセプト・・・。
これからのブランド理念経営のやり方 Part1. 基本解説篇
理念による経営は21世紀の経営です。古くから理念を中心とした経営はありますが、時代変化の様相が激しくなるに従い、時代にほんろうされることなく、ブレない経営を心掛ける企業の中で、大いに研究され、広まってきています。
名著「ビジョナリーカンパニー」を出すまでもなく、現代の先端企業ほど、そして高業績企業ほど、ブランド全体をビジョンで統括して経営しているのが常です。ここでは、その基本的なやり方を解説します。
目次
21世紀のブランド理念経営って何だろう?
ブランド理念経営とは何だろう、と考える前に、考えなければならないことがあります。それは企業にとって「理念」とは何か?ということです。
これは企業あるいは事業がブランドとなっていく上で、絶対に欠かせないものと言ってよいのですが、なぜ、そうした「理念」が必要になるのか。考えたことはおありでしょうか。
理念とは、企業にとって、この世界での「存在意義」を明確化したことばと言えます。たとえば京セラの企業理念は・・・
全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、
人類、社会の進歩発展に貢献すること。
・・・です。
非常に明快なことばになっていますし、京セラの実績・業績を考えれば、素晴らしい理念だと言えるでしょう。稲盛さんは、この理念のあとに「心をベースに経営する。」と題して、以下のことばを掲げています。
<京セラは、資金も信用も実績もない小さな町工場から出発しました。頼れるものは、なけなしの技術と信じあえる仲間だけでした。会社の発展のために一人ひとりが精一杯努力する、経営者も命をかけてみんなの信頼にこたえる、働く仲間の
そのような心を信じ、私利私欲のためではない、社員のみんなが本当にこの会社で働いてよかったと思う、すばらしい会社でありたいと考えてやってきたのが京セラの経営です。
人の心はうつろいやすく変わりやすいものといわれますが、また同時にこれほど強固なものもないのです。その強い心のつながりをベースにしてきた経営、ここに京セラの原点があります。>
https://www.kyocera.co.jp/company/philosophy/index.html より
こうして見ると、京セラの企業理念は、人間の生きることの大原則を、企業経営の土台に据えた理念と言うことができます。京セラをここまでの世界的企業に育てた稲盛さんだからのこその説得力があります。
しかし、敢えて、まさに敢えて、個人的な意見を言わせてもらえれば、いまの時代の企業理念としては古い印象があります。
なぜなのか。
ひとつは、対象が巨大すぎることです。
「心」「人類社会」「進歩発展」・・・。誰もが反対できない、絶対理念的なものを理念の中心に置くと、多くの人からスル―されることが多くなります。それは、あらゆるものの前提として置かれることばだからです。
これからの時代は、より具体的なことばで語られた理念の方が求心力を持ちます。なぜなら「人類社会」が抱える問題が多様化・複雑化しており、進歩・進化の概念あるいは何を求めるのかというイメージも多様化しているからです。
そして、抽象度が高すぎる場合、私たちは「自分事」として捉える事がむつかしくなります。お題目として捉えがちになる。これでは、理念を中心に経営者・社員が一体になりにくい。せっかくの理念経営から、理念がゆえに遠ざかってしまうことは本末転だと思うのです。
21世紀の理念経営は、「企業の夢」であり「社会の夢」でもある目指すべき到達点を、「自分事」化しやすい平易なことばを使って発信することがベースになります。
なぜ理念を中心に経営すべきなのか?
理念を中心に経営するメリットは
理念中心の経営のメリットとは何でしょう?
経営が安定することです。
これは日本の中小企業23万社を対象にした調査から導かれた結論ですが、理念を中心に経営している企業は、まず成長軌道を持続するのに優れ、危機にも強いことが知られています。そして理念の無い企業と比べ、理念のある企業は利益率が約1.7倍との数字が出ているのです。
★宮田矢八郎『収益結晶化理論~「TKC経営指標」における「優良企業」の研究~』(2003年ダイヤモンド社)/『理念が独自性を生む』(2004年ダイヤモンド社)
つまり、好況不況に関わりなく、ブレない経営を続ける力が強い。老舗企業など、ほとんどはしっかりした理念を持っています。
そのため、どのような問題に際しても理念から判断することで確信を持って対処することができます。
さらに経営に判断軸ができ、右往左往することなく結論に至れるため、スピーディな対処が可能です。結果、危機を回避できる。好機を逃さない。そして、長持ちして、つぶれないのです。
理念を持つこと、掲げることに、ほとんどデメリットはありません。
求心力の強い企業として成長できます。
理念経営は、スタッフに働く目的を与えます。人は給与、お金のためだけに働くのではありません。
お金は大切な要素のひとつではありますが、その人にとって日々わくわくとした喜びややりがいのある仕事や職場で働くことの方が、お金よりも仕事に取り組む動機になりえます。というより、そちらの充実の方を人はお金よりも優先させることが多いと私は感じます。
こんな小話があります。
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道でレンガを積んでいる人Aに、何の仕事をしているんだい?と尋ねたら・・
「レンガを積む仕事をしているのさ。見ていて分からないかい? つまらない、誰でもできる仕事だよ。こんな安い金で働かせやがってさ。」と答えました。
その先でレンガを積んでいる別の人Bにも聞きました。何の仕事をしているんだい?
「レンガを積んで建物の壁をつくっているんだよ。デカイ建物らしいけどな。俺には出来上がりは想像もつかないよ。まあ安い金だけど働き口があるだけマシってもんさ。」
もう一人、ずいぶん離れたところで懸命にレンガを積んでいる人Cにも聞きました。何の仕事をしているんだい?
「そう、あんたにはまだ分からないかもしれないが、俺は、この町のみんなに夢を与える仕事しているのさ。まあ見ていな、いまは分からないが、それは見事な教会が出来上がる。そりゃ、スゴイ教会さ。大きな祭壇に光が7色に降り注ぐステンドグラス。オルガンの荘厳な音と、聖歌隊の声がそりゃ美しく響くだろうよ。こんな仕事ができて俺は幸せ者だよ。」
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良い理念は、働く目的を与えます。すべての人の自己実現をサポートするのです。
理念のない企業、あるいは営利だけを目的した企業は人Aを生みだしてしまいます。あるいは理念があってもただのお題目だと人Bまでです。しかし、しっかりとした理念があり、且つそれを会社の隅々にまで浸透させている状態の場合、人Cを生みだすことができるのです。
人Cの状態である場合、どれだけ熱心に、またどれだけその人の能力を使って仕事に取り組んでくれるでしょう。たぶん人Aとはけた違いのパフォーマンスで働いてくれる、また貢献してくれることは火を見るより明らかです。
たったひとつの理念ですが、つまり自分たちの目指すべき理想を掲げて経営することは、組織に属する人々の自己実現につながっています。マズローの5段階欲求の最上位が自己実現であるように、その理想と自己実現が重なるときのパワーは侮れないものがあります。
小さなガレージレベルの企業から世界を席巻する企業へと成長した企業は、すべて素晴らしい理念を掲げています。過去であればソニー、パナソニック、京セラ、ヒューレット・パッカードetc。現在であればアップル、グーグル、アマゾンetc。これらの企業の成長物語には理念やビジョンがいかに人の心を捉え、成長の渦をつくるのかが描かれています。
理念に合う人が集まった一体感のある会社になります。
理念を掲げると、その理念に合わない人は会社から去っていきます。これは企業にとっても、その人にとっても良いことだと言えます。
理念は自己実現をサポートしますが、企業にとっては自分たちの理念で自己実現の機会を得られる人だけが残ることで、まとまりの良い組織をつくることができます。
また、仕事と自己実現が重なることでひとり一人の成長をサポートできます。目標を掲げ、達成感を得ることができるようになるのです。
理念に合わない人は自らの自己実現が可能な、また価値観に合致した企業を探すチャンスを与えられたと考えらると、これは企業にとってもその人にとってもWINWINであるのです。
名著「ビジョナリー・カンパニー」では、これをバスに乗るを選ぶという表現で、語っています。理念がその企業の乗り物となり、合う人は乗り込み、合わない人は降りていく。それは双方にとって良いことなのです。こうした機能も理念の効用です。
経営のスピードが上がります。
こうした組織で理念の浸透がしていくことで、経営トップから現場のスタッフまで、理念による判断が可能になります。
その結果、日々の仕事での判断スピードが上がります。それは全体の経営スピードが上がることを意味します。
スピードは現代社会においては大きな価値です。
シリコンバレーのグーグルを訪問したときに言われたのが、何よりもスピードに価値がある、ということでした。ハイクオリティのアウトプットを普通のスピードで出す者より、クオリティは半分でもハイスピードで出せる者の方をグーグルは評価するのです。
つまり、どんな提案も、アウトプットも、トライしてみなければ結果は分かりません。それならば、まずは出たアウトプットを「フェイル・ファースト(早く失敗する)」の精神で早くテストして、早く改良を続けた方が本当の結果や成果に、早くたどり着けます。
現場も含めてのスピードアップは大きな価値なのです。
日本企業のいまの大きな欠点は、このスピードにあります。現場判断が少なく、経営が根回しをする企業体質は、世界的な経営スピードからすると半周、一周遅れでトレンドを追いかけているようなもので致命的な欠陥とも言えます。
シリコンバレーでも、日本企業が入って来るとスピードが決定的に遅くなる、というのが常識のように語れていました。
この欠点を覆す力になるのが理念を中心にした経営です。判断軸を理念に置くことで、いちいち経営ボードにあげる案件が少なくなります。自主的な判断でよい幅が広がり、スピードが上がるとともに、スタッフの成長も促すことができます。
さらに、経営陣の負担が減ることで、重要案件にフォーカスして経営判断をすることできることで、ミスを減らし、これまた判断スピードを上げることができます。
大きなアドバンテージになるスピードを手に入れることができるのが理念経営なのです。
理念に沿った企業カルチャーを生みだします。
最後にメリットとしてあげられるのが、その企業にあった企業カルチャーを生み出せることです。
これは理念にそった行動を日々繰り返すことで、その理念を実現するのに最適な行動や考え方が、企業のカルチャー(社風と言っても良いでしょう)が育まれていくことを意味します。
これは理念の定着過程で起こります。逆に、あまりカルチャー化しないなら、理念が定着していないと見た方が良いでしょう。
暗黙知的な言語化できないカルチャーが育つことは、企業体質を強靭なものにします。
ほとんどの理念系企業では、こうしたカルチャーを育むために何カ条かの「行動原則」を設けています。「行動原則」を経営トップから現場スタッフまでが守ることで、自然と理念に沿った行動ができるようになります。そして、同様な行動が繰り返し行われ、企業のすみずみにまで浸透することで強固な企業カルチャーが出現します。
理念がカルチャー化すると、いわゆる理想を掲げて飛躍的な成長を持続する「ビジョナリー・カンパニー」に近づくことができます。理念経営は、個人的には、最終的にここを目指すべきだと考えます。
理念を置かない場合のデメリット
理念を置かないデメリットは実はありません。
デメリットが生じるとしたら・・・
①せっかくつくりあげた理念を大切に扱っていない場合か、②そもそも自らの本質を掘り下げず、いい加減な理念しかつくっていない場合です。
①の状態は、つくり上げた理念を現場まで浸透させる努力をしておらず、ただのお題目になっているということです。京セラの理念はいまひとつ対象が巨大すぎると言いましたが、しかし、京セラの経営陣は真剣にこの理念での経営を遂行したから、素晴らしい現状があります。お題目にしないように経営陣自らも徹底したのです。
理念は軽く扱おうを思えば、いくらでも軽く扱うことができます。それは、ただのことばだからです。特定の世界観にもとづいた哲学ですから、無視しようと思えばできるのです。
つまり、ことばを現実世界に実体化させる覚悟が、理念をつくった者には必要なのです。
②の場合は、自らの歴史や内側を掘り下げることでしか、理念はつくることはできません。他には無いのです。自らの本質にたどり着かないと力を持ったことばにならないからです。
要は、腹落ちしないのです。これは論理的な感覚ではありませんが、本質や核心を射ぬいたことばは、企業の内側に居る者には「確かにそうだ!」という感覚が確実に生じます。こうした感覚が生じたことばしか理念にはなれません。
時間をかけて(標準的に最低でも数カ月かかります)、しっかり理念を見出してください。
企業にとって理念とは何か?
理念系ことばの定義
理念系を代表するミッションやコンセプトなどのことばにも、はっきりした定義は存在しません。企業経営や行政などの現場で使われる場合、明確な定義もなしに使われることがほとんどです。ここでは、こうした理念系のことばの意味と働きを定義します。すべてのことばの元々の意味に遡り、そこから在りうべき定義を導き出します。
ビジョン vision
辞書でのビジョン(VISION)の意味は、次のようになります。
“視力、視覚、(学者・思想家などの)洞察力、先見の明、(政治家などの)未来像、ビジョン、(頭に描く)幻、幻想、夢、(宗教的な)幻影”(weblio英和辞典・和英辞典より)
“①視覚。②幻影。③未来像。将来展望。見通し。”(広辞苑より)
「vis-」という接頭辞には「見る」という意味があります。そして、接尾辞の「-ion」には「こと」という意味があります。「vision」とは端的に言えば「見ること」という意味なのです。ビジョンとは、一枚の「絵」でなくてはならないと言えるでしょう。従って、優れたビジョンは視覚的なイメージを秘めています。
ビジョンは、企業の未来を指し示す「コンパス」であり、もっとも大きく長期的に描かれた「経営計画」であり、また「憲法」でもあります。そのために自らの企業とビジネスがあるのですから「存在意義」「存在する理由」でもあります。
それは、世界になぜ私たち企業が存在しているのかを、世界に向かって説明していることば、なのです。ビジョンは「企業がそこに存在する公共的な意味合いを定義したことば」という性質を持っているのです。というより、持っていなければならない、と私は考えます。
企業のもっとも核心にある「セントラル・コンセプト(Central Concept)」と意味づけてもよいかもしれません。ビジョンを次のように定義したいと思います。
ビジョンとは・・・
目指すべき最高の未来を、公共の未来像として設定したもの
ビジョンとは、性質から見ると「多くの人に共有・共感される、未来への洞察を信念までに高めた末に生まれた、自らが心から達成したいと願う、あるべき未来像」です。ただ、それは企業であれば、人々の幸福につながるような価値の創造を通じて達成するものでなくてはなりません。
ミッション mission
ミッション(mission)は非常に多くの企業で使用されています。「使命、任務、伝導、使節団、伝導団」などの意味があります。多くは「企業の使命」という意味で使われています。
使命とは「①使いとして命ぜられた用向き。使いの役目。②使者。③自分に課せられた任務。天職。」(広辞苑)です。つまり、ミッションとは「自らに課した成すべき取り組み」と定義できます。
コンセプト concept
コンセプトは、実際に使っている現場では、プロジェクトや計画の骨子になることばで、関わる人たちを方向づけて自分たちが何をしようとしているのかを共有するためにあります。
Conceptを英英辞書を引くとprincipleということばが出てきます。これは原理、原則、仕組み、根本方針などの意味を持っており、私はコンセプトは、この「principle(プリンシパル)」の意味を重きを置いていると考えます。ただし、コンセプトは「創造されたものの全体を貫く視点や発想」という要素も持っています。
ミッションとの関係を意識して定義すると、コンセプトは「取り組みのための新しい実行原理」と定義するのが良いでしょう。
バリュー value
Valueは英語の辞書であれば「価格、値段、価値、重要性」などと並んで、複数形でsをつけて使うときの意味で「価値観、価値基準」が出てきます。
バリューは、後者の意味でつかわれることばです。海外の企業ではほとんどが「values」や「core values(コアバリュー)」の表記で使っています。
バリューは多くの企業で、スタッフが仕事に取り組むときの実際ベースの行動基準として定められています。
つまり、バリューの定義は「実行において優先すべき価値基準」ということになります。日ごろの行動で優先すべき在り方であり、ほぼ行動基準に近いものです。成長や目標達成がなされるための“土壌”の役割を果たすのが、このバリューなのです。
アイデンティティ identity
もう一つ、こうした理念系のことばとして置きたいものがあります。英語ならself-definition(セルフ・ディフィニション)あるいはidentity(アイデンティティ)です。
要は「自分は何者か」を規定することばです。ここでは「正体、身元、自己同一性、独自性、個性」という意味を持つidentity(アイデンティティ)を使用します。用語としては「Corporate identity(コーポレート・アイデンティティ)」のように使用されています。
企業におけるアイデンティティとは、世のためになり、多くの人が受け入れる「自らの資質に基づくあるべき自己像」なのです。
理念系ことばでもっとも重要なもの
重要なふたつのことば
もっとも重要なのは入口と出口にあたる、ビジョンと、アイデンティティです。
ビジョンは到達目標であり、企業の未来像であり、世界が望む未来像です。この未来像があってこそ企業は一心同体となり活動を続けていけます。
そして、アイデンティティは自己規定であり、自分が何者かを明らかにするものです。ここが起点となり企業は活動を始めます。
出発点(アイデンティティ)とゴール(ビジョン)を明快にすることを優先すれば、あとのミッション、コンセプト、バリュー等は自然に生まれてくるはずです。
いつ理念系のことばを定めればよいのか
こうした理念系のことばを明確に定義して起業することもあれば、市場の可能性や自らのスキルを頼りに、ほとんど明確な定義をもたないまま起業することも多々あります。たった一人で、あるいは数名での起業なら、これでも良いと私は考えます。
なぜなら起業し、会社が大きくなるうちに、自分たちの目指すべき未来が見え、達成したい目標が明確になることが多いからです。
しかし、ある程度の大きさになっても、理念系のことばをしっかりと定めない企業は発展の礎を固めないまま、売上のみを頼りとして成長(これは成長ではなく膨張と言えます)を続けた末に内側から瓦解することが多いように感じます。
シリコンバレーをつくった最初の企業である「ヒューレット&パッカード」社も、当初はやれることはなんでもやるという姿勢で、会社を大きくしていきました。いまでは史跡指定されている二人が創業した小さなガレージがあります。シリコンバレーがスタートしたとは思えないほどの大きさです。
私は訪問したことがありますが、ほとんど10畳程度の広さしかない小屋ですが、1938年、スタンフォード大学の同級生ビル・ヒューレットとデイブ・パッカードは、この小屋で「人々の役に立つ何かを発明したい」という夢と情熱を持って、創業したのです。
順調に会社を大きくしたあと「HP way」という行動規範を定めます。そして、さらに順調に成長する軌道に乗るのです。以下の文章はHPEのホームページからの引用です。
(https://h50146.www5.hpe.com/info/hr/hpe/graduates/company/our_culture/)
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HP way
・私たちは社員一人一人を信頼し、尊敬しています。
・私たちは高いレベルの成果と貢献を重視しています。
・私たちは誠実をモットーとしたビジネスを行なっています。
・私たちはチームワークを大切にして共通目標を達成します。
・私たちは柔軟性と革新性を奨励しています。
会社は、本当に社員が働きやすい環境・制度を整備する。社員は、そうした会社の姿勢に応えるべく責任と義務を要する。こうしたお互いのWIN – WINの関係をHPEでは大事にしています。
ビルとデイブは、広く知られているHPEのオープンな企業文化の基礎を形成しました。
尊敬と信頼に基づく企業文化
オープン・ドア・ポリシー
仕切りや役員室の扉を無くして部屋を開放し、信頼と相互理解の雰囲気を創造しました。オープンドア・ポリシーによって、社員は叱責されたり、あるいは悪い結果を恐れずに、積極的にマネージャーと問題について討論するようになりました。
フレックス勤務
HPEの信頼関係を示す例として、最も広く知られているのはフレックス勤務制度です。現在は業界全体にも広く採用されていますが、フレックス勤務を採用したのは、米国企業ではHPEが初めてです。個々人のニーズの違いを認めるのもHP Wayの要素の一つです。
社員との双方向コミュニケーション
デイブは、自らが従業員一人一人に積極的に話しかけるマネジメントスタイルを取っていました。この経営手法は、後にマネージメント・バイ・ウォーキング・アラウンド、通称「MBWA:巡回管理」と呼ばれるようになりました。
ビルとデイブはこれ以外にも、高額医療保険を提供する、彼ら自身を含めて社員をファーストネームで呼ぶ、社員のためのパーティーやピクニックを定期的に催すことなど、従業員とのコミュニケーションを大切にしていました。
そのポリシーは、オール・エンプロイ・ミーティングやコーヒー・トークなど、形を変えて今の時代のHPEにも受け継がれています。
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詳細な理念はHPのホームページで見てほしいのですが、いわば会社の憲法(成長と革新を持続し、オープンで快適な社風を維持する)として、これらの文言を決めたことが見て取れます。しかし、これらのことばを決めたのは創業当初ではなく、かなり後でした。
ここから導き出せるのは、理念系ことばは“会社がある程度の大きさになるまで無くてもいいかもしれないが、絶対に必要になるもの”だということです。憲法を定めずに国を運営することがままならないにように、企業が本当の意味での成長を目指すときには100%必要になる、と断言できます。
理念設定のチャンス、時期は以下のようになります・・・
①創業のとき
②スタートアップであれば成長軌道に乗り出したと確信できるとき
③成長が踊り場に差し掛かり、事業をもう一度見直す必要が生じたとき
④さまざまな要因で危機的状況に陥ったとき
①②が理念系のことばを定めるもっとも良い時期でしょう。③④は避けた方が良いと思いますが、こうした時期に素晴らしい理念を定めた企業もあります。たとえばアウトドアメーカーのPatagoniaがそうです。
1991年に経営危機に陥ったときに、創業者のイボン・シュイナードは、経営陣を実際に南米のパタゴニアの地に連れて行き、自分たちの創業の歴史、存在意義を徹底的に問い直したそうです。その過程を経て理念を定めています。
ここにある「ミッション・ステートメント」「存在意義」は、そのときにつくられたものです。以下に全文を掲げます。
(https://www.patagonia.jp/company-info.htmlより引用)
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パタゴニアのミッション・ステートメント
最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。
私たちの存在意義
パタゴニアは、自分たちや仲間たちのクライミング・ギアを作る小さな会社として出発しました。現在もアルピニズムを企業理念の中心として、クライミング、スキー、スノーボード、サーフィン、フライフィッシング、パドリング、そしてトレイルランニングを楽しむ人たちのためのウェアを作っています。機械的な動力も観衆の声援も要しないこれらのスポーツは、どれも私たちと自然とのあいだにある架空の境界を取りはらい、「自然と一体となる瞬間」という得がたい恩恵を与えてくれます。
私たちが作る製品は、クライマーとサーファーが集まってスタートしたビジネスと彼らが推進したミニマリストのスタイルを反映して、シンプルさと実用性に徹したデザインを追求しています。
パタゴニアで働く私たちの心にある、手つかずの自然が残る美しい土地に対する情熱。それはまた、野生地域を保護する情熱と直結しています。野生のままの姿を留める土地や水域を守り、急速に悪化している地球環境の現状を逆行させるための活動を続けるために、米国内外で草の根環境保護活動をおこなう何百もの団体に、パタゴニアは時間と労力、さらに毎年売上の1%以上の寄付を行っています。
私たちのビジネスも、店内の照明から製品の生地の染色に至るまで、何らかの形で環境に影響を与えています。私たちはできる限りリサイクル・ポリエステルを使用したり、農薬を大量に使って栽培される通常のコットンではなく、オーガニックコットンのみを使用するなど、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑えるために、たゆまぬ努力を続けています。
ビジネスを営んできたこの30数年間、私たちは本質的な価値観を忠実に守りつづけながら、パタゴニアという誇るべき会社を築いてきました。そして、つねに最善を尽くしてクォリティの高い製品を作る姿勢が、市場での成功へと繋がってきたのです。
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いずれにしても、自分たちの存在意義、なぜ起業したのか、どんな価値を世の中に提供してきたのか、提供したいと思っているのか。などの本質的な問いを立てることが、理念づくりには必要です。
その問いに真摯に答えていくことで、自ずと理念は導きだれてきます。
理念の創り方
理念はどのように創るのか
もっとも肝心なのは前項で書いたように“自分たちの存在意義、なぜ起業したのか、どんな価値を世の中に提供してきたのか、提供したいと思っているのか。などの本質的な問いを立てること”です。
問いを繰り返して、自らの内発的動機、本質的な存在価値を、心から納得できるまで掘り下げることで理念への道筋は見えてきます。
こうした動機や価値は、分かりやすく見つかりそうで、そうでないことがほとんどです。
自分たちの価値は一様ではない
なぜ、本質的な価値が見えにくくなるのかというと例えば自動車メーカーの価値を考えてみると分かります。
自動車メーカーの直接の仕事は「車をつくって売る」ことです。
しかし、これは価値ではありません。これは業態を言っているだけであって、人々が受けとっているものを表現しているわけではありません。
人々が受け取っている価値は「移動する自由」であったり、「移動する楽しさ」であったりするかもしれません。ひょっとしたら「一人になれて過ごせる時間」や「家族と過ごせる時間」を顧客は受け取っているかもしれません。
時代が進み、自動運転が普及するとまったく違う価値が車に求められるかもしれません。
スマホのアプリで数分以内に自分の居る場所まで車がやってきて、車に乗り込むと指定の場所までほおっておけば運んでくれるようになると、車での移動時間は何をしてもよい居住空間になるし、車の存在意義が所有するものから、公共的なインフラ(たとえば水道や電気、鉄道のようなもの)に変化していきます。
すると移動がまったく違う意味を持ちます。安全に確実に、そして安く移動できるようになると自動車メーカーそのものが移動インフラの会社になるとも限らないのです。
こうした未来を想定すると自動車メーカーの理念づくりは一筋縄ではいかないことが分かります。移動とは何か、車とは何かから問い直すことが必要になるからです。
理念づくりのこつ
時代の変化に流されない理念づくりを行おうとすると、ほとんどの業種も同様の困難さに直面します。こうしたときに有用なのは創業の原点、創業の歴史まで遡って考察を進めることです。
初めの一歩を創業者、経営者は何を思って踏み出したのか。混じり気のない、その心中にまで遡ることが理念づくりにとって有効になります。
理念づくりのこつは【過去 → 現在 → 未来】の時制での企業の在り方を、しっかりと見ることに尽きます。
この時間の流れの中で、自分たちがどのような理想を追求しようとしてきたかを、表面に現われたもの(形式知)、裏側に隠れているもの(暗黙知)で見ていきます。
理念づくりには、私の経験的に最低でも3カ月から4カ月、長ければ1年ほどの時間がかかります。「自社の創業時・過去の棚卸し」「現在の棚卸し」「未来の想定」とステップを踏みながら、土台固めをして積み上げていきます。
一度決めた理念は余程のことがない限り、つくりなおすことはありません。時流に合わせてちょっとした改訂や追加はあっても、会社や事業の憲法として運用されていくものです。拙速にならないようにステップごとに確認しながら進んでください。
理念づくりのための質問をする
以下に、理念づくりのために自らに問いかけてほしい質問を並べますので、時間を取って、こうした質問に答えてみてください。必ず気づきを得ることができます。
<理念づくりのための19の質問>
≪創業≫
①この会社はいつ、どのように、誰が、どのような状態で創業しましたか?
②創業することを決めた理由を3つ以上あげてください。
③どんな思いを抱えて、この会社を創業しましたか?
④創業時に抱えていた夢はどんな夢だったのでしょうか?
⑤創業時にもっとも苦労したことは何ですか?
⑥困難に出会ったときに、創業者は何を思い、その困難を乗り越えたのでしょうか?
≪喜び≫
⑦この仕事をやってよかったと思ったのは、どんなときだったでしょう?
⑧この仕事は世の中のどんなことに貢献していると思いますか?
⑨お客様が受け取る喜びはどんな喜びですか?
≪達成≫
⑩自社がいままでに達成したことをすべて書き出してみてください。
⑪その達成はどのような理由があって達成できたのでしょうか?
⑫自社に可能性を感じるところはどこですか?すべて書き出してください。
≪課題≫
⑬いま自社が抱え得ている課題をすべて書き出してください。
⑭その課題に対してどのような解決方法を試していますか。
⑮必ず改めるべきだと思う自社の体質は何ですか?
≪未来≫
⑯事業に対してどのような未来が想像できるか10年、20年の単位で精査してください。
⑰その未来に自社はどのような在り方が可能か、考えられるシナリオを描いてください。
⑱その在り方は顧客、関係各所、自社(経営、社員)を豊かに楽しくしますか?
理念づくりのためのスタッフィング
理念づくりは、経営トップ直轄で社内でチームを組んでスタートした方が良いです。このチームは社内の多様な部署からメンバーを集め、視点が偏らないように気をつけましょう。
メンバーはリーダーを入れて8名以下がベストです。コンパクトで意思疎通がしやすく、まとまりやすい人数で構成します。
社員を巻き込む仕組みを取り入れる
また、できるだけ全社員に参加意識をもたせる仕組みを取り入れてください。
各部署から簡単な素案を募集するとか、アンケートを実施する、進捗の過程を特設サイトから発信するなど工夫を凝らしてみてください。
可能であれば社外の人の理念づくりの期間中、コンサルタントやコーディネーターのかたちで契約して入れるのも考慮してください。
しっかりした理念は、スタッフの心をまとめ上げ、企業を成長軌道に戻すくらいのパワーがあります。そのためには自社の将来にわたる価値を「本質から掘り下げて定義する」試みと、それを定着させる試みが必要です。諦めることなく一歩ずつ、進むことを心がけてください。
素晴らしい理念をつくりあげて、この時代に飛躍することを目指してください。
ディープビジョン研究所は、そうした企業を全力で応援・サポートいたします。